ギフト 花のこと、公開します
買収後、もし一棟ずつビルを売却したら、どの程度の税金を納めなければいけないかといった計算をしたり、投資採算ラインとして、調達資金の金利を八%で計算するなど、さまざまな角度から分析してそんな作業をしている最中に、三菱地所が先にビッドを入れたという。
その価格が、売り手の投資銀行から入った。
我々のチームはその価格を聞いて仰天した。
三井不動産に推薦しようと思っていた価格の実に三倍の株価が提示されていたのである(買収金額に換算すると二千二百億円である)。
私は「これではとても買い落とせない」と落胆しながらも、三井不動産に説明に行った。
三井不動産側の関心は、「なぜ地所はそんな高価格を提示できるのか」ということに集中した。
私は、想像に過ぎないと断って、次のように説明した。
「先方は円のスワップ付き債券を発行して、実質ゼロ金利でファンディングする力があります。
また、恐らく買った物件は総て丸の内のように永遠に保有し、一つも売らないというお考えではないかと思います。
そうすれば値上がり益に対する税金を支払わないことになります。
その前提に立てば出せる価格です。
しかし、失礼ながら、御社にはそうした前提でものを考え、高いビッドを出すお力はないと思います」当時、三井不動産の米国法人社長は、こうした話を聞いて立派な判断をされた。
「皆さんの会話を聴いていて思いだしたことがあります。
それは東京で愛宕山の土地を入札した時のことでした。
我々は三菱地所に負けました。
彼我の差は大きく、横綱と関脇の違いがありました。
当社の体力では、三菱地所と同じ金額のビッドを出すことはできません。
分かりました。
土俵を降ります。
たいへん残念ですが、次の機会を待ちましょう。
きっと良い投資機会はまた来るはずです。
その時また皆さんにお助け頂きたい」その後、地所は高値で買収したロックフェラー・センターを結局持ちこたえられなくなり、やがて売りに出す(その損失は一千五百億円と報じられた)。
ロックフェラー・センターを買ったのは、なんとゴールドマン・サックスを含む投資家グループである。
私もリック・ロウランドもすでに独立した後で、その時はゴールドマンには居なかった。
ウォール街がすべての産業をぶち壊す先日、「ギャレット・ホテル・グループ」の創業者であるデイビッド・ギャレットとホテルの「おもてなし」の質が低下していることに関して話をした。
ギャレット・ホテル・グループは「ザ・ポイント」「レイク・プラシッド・ロッジ」など、アメリカでも超高級リゾート・ホテルを所有・経営する会社だ。
十四歳以下の子どもは、宿泊出来ない。
ただし、ペットを連れてくるのは構わない。
ペット好きの顧客の多くはプライベート・ジェットに愛犬などを乗せて来るそうだ。
ダイニングに行っても印刷したメニューはなく、毎日、その日のメニューをシェフが考える。
ディナーはデイビッドや夫人のクリスティーがホスト・ホステスになって、泊まっている人たち皆をお誘いし、一緒にテーブルを囲んだりする。
暖かい日であれば、食後はキャンプファイャーを囲みながら、食後酒を飲み、新しく出来た友人と夜更けまで楽しい会話をして過ごすこともできる。
皆童心に還って時間を過ごす。
一方、ご夫婦だけで想い出深い食事をしたければ、湖に突き出した岸辺にテーブルをセットして貰うようなことも遠慮せずにできる。
このホテルは「通常できない体験」を演出することを心がけている。
そんな「最上のおもてなし」ができるホテルを築き上げたのがデイビッドとクリスティーだ。
彼はホテルの質が低下している理由をこう語っていた。
少々長いが、デイビッドの話をそのまま載せておきたい。
「ホテルの質が低下したのは、ウォール街がこの産業に入ってきたからだ。
良いサービスを提供するには投資しなければいけない。
新しいホテルを創ったら三年は赤字を覚悟しなければダメだ。
それから収支はトントンになって、少しずつ儲かるようになる。
五年、十年かけて固定客のリストが出来、ようやく名門ホテルとしての地位を築く。
時間をかけて地位を築けば、そのホテルの経済価値は著しく向上するものだ。
私はロックフェラー家の別荘だった「ザ・ポイント」を二十年前に百二十五万ドルで買った。
去年(二○○七年)、このホテルを一部屋三百万ドル、十室合計三千万ドルで売った。
この価格は全米の一部屋あたりのホテル売却価格としては史上最高だ。
何故ならば、『ザ・ポイント』には千五百人の上客顧客リストがあり、宿泊客の八五%がリピーターで、かつ三五%は毎年一回はお越しになる方だ。
値引きは一切しない。
こういうホテルを創ることは、ウォール街の連中にはまず無理だろう。
彼らの辞書にある言葉は『コスト・カット』だけだからだ。
人件費も削れ、あれも削れというのでは顧客はもちろん、ホテル事業を熟知している従業員をも離反させる。
しかも、コスト・カット優先で、ホテルの内装や家具も大量仕入れで同じにする。
どこに行っても飽き飽きするほど同じような部屋しか作らない。
これでは顧客が喜ぶわけがない」ここでデイビッドがいう「ウォール街の連中」とは、ホテルやホテル・マネージメント会社を買収してきたプライベート・エクイティー・ファンドを指す。
この話を一緒に聞いていた私の同僚も我が意を得たりで、こう述べている。
「デイビッド、ウォール街がぶち壊している産業はホテルだけではないよ。
今すべての産業で同じことが起こっている。
投資といっても、所詮は安く買い、出来るだけ早く高値で売るために使っている金だ。
彼らには将来を築くための投資を十分にする気持ちなどないよ。
買い叩いて、コストを削って見かけのキャッシュフローを増やして売り払うことしか頭にない。
しかもほとんど他人の金でそれをやる」(未公開企業の株式を取得し、株式公開や第三者に売却をすることでキャピタル・ゲインを得ることを目的としたファンド)は、運用金額の二%、キャピタル・ゲインの二○%を報酬として一受ける契約をする。
こうした契約をしたファンド・マネージャーは、とにかく短期にキャピタル・ゲインを出すためだけにひたすら働く。
十年二十年かけて事業を創るという概念は無い。
私はロバート・ミラーを創業して十六年になったが、もちろんライフ・ワークとして取り組んできた。
デイビッドも同じである。
こうした発想は彼らには無い。
社会に対してどのような貢献をしたとか、倫理観が高いとか、そうしたお金以外の要素はまったく評価の対象とならない。
資金を預けている資本家は「リターンが悪いのは社会的貢献をしてきたからだ」というような説明を聞く耳をもたない。
法律さえ守っていればあらゆることをして、キャピタル・ゲインを上げることだけが目標となる。
しかも、彼らはできるだけ税金を払わないようにするし、現在のアメリカの税制はそれを許容している。
キャピタル・ゲイン・フィーは「フィー」(手数料)であるにもかかわらず、税法上は「キャピタル・ゲイン」と看倣され、現行の税率は二八%かそれ以下である(「ブッシュ減税」では一五%に下げられている)。
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